写真家になる

受話器から流れる声は低音で、彼女から発する言葉はあまりに残酷だった。こっちの一方的な思い上がりだったのかもしれないけれど特に嫌いにもなれず、沈黙に耐える。沈黙が嫌で何か言葉にしたり笑ったりするけれど、本当に伝えたいことは言葉に変換することは困難で、もはやそうできない核が心という存在であって、無駄に単語を並べ元気なふりを装う。涙を堪えて、わざと明るく振る舞い本心とは裏腹な態度で接すれば「優しいね」なんて聞きたくもないこと言われるけど、そんな言葉じゃ心の穴は塞がらず、手持ち無沙汰で煙草に火をつける。夜の暗闇は優しいけれど執拗にまとわりつく湿気と現実が気だるさを促進し、信じられない結末は意識の底へと堕ちてゆく。大切なことを知り始めたはずなのに、大切なことは簡単に崩れ去る運命にあるんだ。あの時抱いた感情は正真正銘本物だけど食い違っては何もならないんだ。こんなとき深い煙に紛れたら駄目だから俺は写真家になる。もうぼろぼろになるまで写真を撮ってやる。迷いはない。これは俺に課せられた試練なんだ。もう長い間恋はしたくない。

「写ってる」写真撮れてんかなー、とか思うけど結局その日その時その瞬間感じたものに動かされて撮ってるんだからまあ写ってるんだろう。オートもいいけど丁寧にファインダー覗きながらピント合わせていった方が関係性が写り込むんだろうね。きっと撮るものが何であってもやっぱり関係が憑き物なんかと思う。一眼だと細かいとこまできちんとしなきゃならない気がしてあれだけど、もちろん良いんだけど、ライカみたいなレンジファインダーのがどっちかっつーと適当な風が性に合うっつーか。使ったことないけど。まあ機材選ぶのも大切だけどもっと大切なのが写ってるか否か、写せてるか否か。まだまだこれからだな。

曖昧にゆれる。自我なんてそりゃ大した自我なんて持ってないんだって思いつつ特に悲しくもなく楽しくもなく障害もない平坦な路上を歩き易いメレルかなんかのスニーカー履いて少し駆け足でいるような気分。それでも朝は来て現実が全身にまとわりついて空っぽのカメラにゃフィルムも詰め込む勇気もなくてくてくいつもの路上を歩いてく。だけど腹は減って天丼からーめん食って誰かに会ってくだらない話を夢中でして疲れ切って蒸し暑い部屋に帰ってボルビックでも飲んで朝方まで眠気の到来を待つ。変化なんて些細なものしかなくて大きな変化を期待しても結局何もまだしていない自分がいるってことが現実で。だけど楽しんでる人生を送るには最低限の努力が必要で前に踏み出す一歩も必要で偽ヒッピーが周りにゃたくさんいるんだけど音にとろけて音がとろけてまた深い白の中に入っていくんだろうきっと。でもフィルムは詰め込んでみよう。

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昨日今日と酒を呑んだ。ひーちゃんの送別?会みたいな。御茶ノ水でこのみちゃんにたまたま会い、誘われるまま西荻窪へ。会ったことある人、ない人、顔だけ見たことある人。ここら界隈の人たちは反社会的で良い意味で気が抜けてて居心地がいい。話は盛り上がり、数人でそのままおさむちゃん家へ。偏頭痛のせいでいつの間にか寝てしまった。誰かの家のベッドで寝るのは気持ちがいい。

12時過ぎに起き、多摩川へ。バーベキューをする。やっぱアウトドアは楽しい。なんだか楽しくてあっという間に時間が経過する。それにしても経費で呑むって最高だ。

新宿へ行く。卒業生と4年生で呑む。二回目のひーちゃんの送別?会。やっぱ下といる時より居心地がいいのはなんでだろう。なんだかとても温かい。


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電車に乗っているとき、自転車にのっているとき、道を歩いているとき、授業を受けているとき、友達といるとき、どんなときでもふと考えてしまうことは写真のことだ。スナップに熱中してるときは森山大道の写真集やPROVOKEをむさぼり見た。周りの親しい友人を撮っているときは「self and others」や「センチメンタルな旅 冬の旅」を見ていた。ヌードを撮っている今は荒木だったり沢渡だったりジャン・フランソワ・ジョンベルだったり、アサヒカメラのバックナンバーを見ている。勿論名前の通った写真家の写真は網羅しているつもりだけど。
一体僕はどこに向けて撮っているのか、又は、どこに向かって撮っているのかわからない。一つはっきりしていることはある。それは自分に向けて、自分のために撮っていること。よく眼にするのが、「撮らねばいけない衝動に駆られ写真を撮った」というような動機。果たしてこの衝動が自分に起こり得るのだろうか。この、わずかな可能性を信じて撮っていけば、なんだか未来は明るい。

彼女が連勤の疲労が溜まったせいか体調を崩し急遽ゴーギャン展は中止になった。今宵は月が綺麗だ。絶対何かある。月をスナップし続けるのもいいかもしれない。表現したくない気持ちを表現するのもいいのかもしれない。写真じゃ難しいけど。
今読んでる本
「さよなら、消費社会」
「RAVE TRAVELLER」
「文化=政治」
「黄金の枝を求めて」
体がついていかない


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今日学校に行く。りらから「さよなら、消費社会」を借りる。りら、このみちゃん、僕の三人でラドリオに行って珈琲を飲む。このみちゃんと別れた後にわかぱい先生に偶然会い、りら、わかぱい先生、僕の三人でかげろう文庫に行った。腹が減っててんやに行き、遅い昼飯を取る。一週間のうち何回てんやに行ってるかわからない。喫煙所に行く。さとみ、えむりこさんとすれ違う。えむりこさん遅れて喫煙所に到着。その後部室に行き、このみちゃん来るのを待つ。りら、古村、美咲さん、僕でスピーカーから流れるD-NOXを聞く。なんだかとても気持ちがいい。ミニマルのかすかな変化がとても気持ちいい。その後下北に行く。りら、こうし、だいちゃん、せきちゃん、僕で今成に行き軽くひっかける。今日は人に会い過ぎた。疲れがどっと溜まる。話すのは好きになってきたけど、今日は話しすぎた。

明日はゴーギャン展に行く。五限にあるゼミの合宿説明会がまじで死ぬほどめんどくさい。久しぶりに会うっていうのに。